![]() 「しまねフォレスト・ネットワーク」の会員たち |
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人と森とを結びつける自然界の「庭師」
「花の美しさや香りに心を奪われ、鳥のさえずりや渓谷のせせらぎに感動する。樹木の成長に目を見張ったり、ときには山菜に舌鼓を打つ。山の頂上に立って周りを見渡せば、無限に広がる天と地を自分のものにした感動が味わえる。森の美しさ、楽しさは、そうしたダイナミックな空間にありますね」
と、島根県の森林インストラクターで結成された「しまねフォレスト・ネットワーク」代表の吉岡
利さん(66)は森の魅力を語る。庭の場合、人が手を加えて花の咲く季節や色、木々の高さのバランスなどを計算して、それぞれの配置を決めていく。そこから人は、いわば「絵画的な美」を楽しむ。一方、森は、「五感」をフルに使って感じる楽しさだという。
森林インストラクターの仕事は、森林や林業への啓蒙・啓発活動などで、市町村や学校などの要請を受けて林業学習の指導や森林文化の案内などを行う。「しまねフォレスト・ネットトワーク」は、森林インストラクターが、森をもっと身近に感じてもらうための活動を主体的に企画、運営していこうというものだ。
すでにスギの圃場や木材市場、間伐材の製材所、熱心な林業家などを訪ねるツアーや、県産材を使った家具や木のつるを使った網かご作りの教室を開いたりしている。森の楽しさ、大切さを知ってもらうための試みだ。
「今、山歩きをすると、人工林がほとんど手入れをされていない状態で荒廃しているのが目立ちます。下草は絶え、下枝は伸び放題。その結果、森は、見た目が美しくないというだけでなく、貯水や治水、山地の崩壊防止といった自然のダムとしての役割も果たせなくなっているのです」
森は、人の手が入らないとどんどん荒れてしまうという。人の手入れが必要なのは、森も庭と同じなのだ。人はもっと森に関心を持つべきだと、吉岡さんは語る。
そのためには、人に興味をもってもらえる魅力ある山をつくることが大切だ。昨年、松江市の北にある大平山の頂上付近で、雑木林の伐採が行われたのもそうした試みの一つだ。ここは、北は日本海、南は松江の市街地や宍道湖などが見渡せる絶好の景観地なのにもかかわらず、つるが繁り、雑木が密集してせっかくの景観が生かされていなかったのだ。間引きしたおかげで大平山は、人が登って楽しい山に蘇ることができた。
人が作った庭には、作る人や持ち主の個性が表われる。同様に森林や山にも、景観の美しいもの、美しい花の咲くものなど、さまざまな個性がある。たとえば登山コースとして人気の三瓶山は、景観や植生も楽しめるし、広島県との県境にある吾妻山は、年中、陽の射すはだか山で四季折々の草花を手軽に楽しめる。また大万木山から琴引山にかけての稜線を歩くと、珍しいブナの純林をはじめ、山シャクヤクやササユリなど多彩な山草にも出会える。
「島根県内には、三瓶山や船通山のように、国引き神話やヤマタノオロチ伝説の舞台となった山もたくさんあります。そうした大自然の悠久のロマンが息づいているところが、島根の山々の持つ最大のアイデンティティーです」
と、吉岡さんは語る。それぞれの森林の持つ環境や雰囲気を大切にしながら、森を守り、育てていく森林インストラクターは、まさに自然界における「庭師」のような存在だ。
「今後は、森に生えている木や草花に解説付きの名札を付けることで、子どもたちが親しみやすい森づくりを考えています。感性を磨き、情操を育むうえで、五感を使って大自然と触れ合える森は、格好な自然体験の場所ですからね」
島根県は、全体の八割近くを山林で占められている。そう考えると山や森は県民にとって、気軽に足を運べる「庭」のようなものだ。子どもたちが山や森を自分の「庭」として育つことができれば、大自然の恵みは、必ずや豊かな心をもたらしてくれるに違いない。

![]() 赤来町・県民の森で行われた自然観察会 |
![]() 頂上付近の景観をよくするため 大平山で行われた雑木林の伐採の様子 |