特集島根石見探訪数多くの芸術家を輩出する石見地方を旅する  
   
 石見地方とは島根県の西部地域を指す。東西に長い県であるがゆえ、東部の出雲地方とでは、気候はもちろん人の気質までも大きく異なっている。真面目で勤勉といわれる出雲人気質と対象的に、石見の人々は何につけ豪快で開放的なのである。石見地方は、万葉歌人・柿本人麻呂をはじめ画家・雪舟など日本の芸術界に多大な功績を残した偉人たちが、あちらこちらにその足跡を残している。接したであろう大自然も今だ健在だ。そこで、彼らの人柄に触れる旅に出てみてはどうだろう。「萩・石見空港」へは東京から約1時間半、大阪から約1時間。オリジナルの楽しみ方と発見に出会える石見探訪の旅はこんなに近い。

石見ゆかりの芸術家を訪ねて
万葉歌人・柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)
 
柿本人麻呂
 歌集「万葉集」に、柿本人麻呂の作品が多く記されていることはよく知られている。しかし、彼が朝廷に遣えた役人で、島根県石見地方へ派遣されこの地で亡くなったと伝わることはそう知られていないだろう。石見国より妻と別れて上るときの歌がある。
『・・・寄り寝し妹を露霜の置きてし来ればこの道の八十隈毎に 万たびかへりみすれど(中略)偲ふらむ妹が門見む靡けこの山』。
互いに寄り添って寝た妻を置いてきたので曲がり角が来るたびに振り返って見るが、どんどん里から遠くなって妻のいる家が見えない。だから山に低くなってくれと願っている歌である。
 
高津柿本神社
 しかし彼は結局、旅の途中で亡くなるという運命をたどった。
 『鴨山の岩根し枕けるわれをかも知らにと妹が待ちつつあらるむ』
 自分は岩を枕として死のうとしている。それを知らない妻は、ひたすら私を待っているだろう・・・。
 
戸田柿本神社
やりきれない悲しみが伝わる。実は人麻呂については、生年月日や生誕の地、動向さえも定かでない。しかし常に妻のことを恋しく思う愛情深い男性であったことは歌を見れば明確である。
歌には”鴨山“など島根県内のものだと思われる地名が随所に用いられている。そこで、この情深き歌人に触れる旅をしてみてはどうだろう。生誕の地とされる戸田柿本神社、鴨島で死没した人麻呂の霊を祀る高津柿本神社、そして隣接する万葉公園・・・。
万葉ロマンに思いを馳せる大人の旅である。

 
画聖・雪舟(せっしゅう)
 
雪舟 像
  小僧の頃、涙で鼠の絵を書き和尚を驚かせたと伝えられる雪舟が石見の地へ足を踏み入れたのは文明10(1478)年。各地を巡って落ち着いたのが、江津市の小川家であり、ここに雪舟が作ったとされる庭園がある。また、益田市の万福寺、医光寺にも雪舟作の庭園がある。万福寺は、庭の中心となる石組みの下に”心字池“が作られるなどする池泉鑑賞回遊式庭園である。一方、医光寺は樹齢400年といわれる桜の方が有名になってはいるものの、その桜が鶴池に姿を映す様には例えようのない趣きがある。
 
医光寺の総門
 大分県などにも雪舟庭園はあるのだが、石見地方にこだわって雪舟を垣間見る旅には訳がある。
 
医光寺の庭園
雪舟は、後に山口で十数年暮らしたにもかかわらず、また石見に戻り東光寺の住職として天命をまっとうしているのだ。それは、戦乱とは無縁の静かな地を好んだ彼自身の選択であったとされている。東光寺は焼失したが、大喜庵として再建され隣接して雪舟の郷記念館がある。彼の作品の展示はもとより墓もここに作られている。
 雪舟が晩年の棲家とした石見地方は、今なお変わることなく平和な時を刻み続けている。
新劇創始者・島村抱月(しまむらほうげつ)
 
島村抱月 像
 金城町出身の島村抱月は、新劇を日本に取り入れたひとりである。
 成績優秀だったものの、父親の事業失敗により苦労を重ねて現・早稲田大学へ進学。後に海外留学などを経て西洋近代劇の日本取り入れを成功させた。
 
抱月公園
 抱月は新劇の劇団である芸術座の創設も含め、近代演劇の発展を語る際になくてはならない人物であるが、その偉業に加え興味をそそられるのは、同劇団の女優・松井須磨子が彼を慕うあまり彼の死後に自殺していることである。それほどの魅力があった抱月とは一体どんな人物だったのだろうか。
 
抱月公園
 金城町には、抱月の遺品が展示される歴史民俗資料館、石碑や顕彰板のある抱月公園がある。公園は遊歩道が整備され、眺望も抜群である。
 生まれ故郷を旅してみれば一人の女性を死に追いやるほどの抱月の魅力が分かるかもしれない。


 
芸術家たち
 
おう外記念館
 医師であり文学者でもある森外。『舞姫』『高瀬舟』などの優れた文学作品を発表した彼は、10歳まで津和野で暮らし養老館で勉学に励んでいた。以後は東京で暮らし1度も故郷の津和野へ戻ることは無かったというが”石見人として死せんと欲す“との遺言を残していることから外がいかにふるさと津和野を愛し続けていたのかが分かる。森外記念館、旧居、藩校養老館跡を訪れてみるといい。彼の人柄に触れる旅は、きっと心あたたまる旅となる。
 
安野光雅美術館
 他にもこの町の出身者に画家・安野光雅氏がいる。安野光雅美術館など見所の多い津和野町の魅力や楽しみ方については本紙21ページにも記載されているので参照していただきたい。
 また三隅町は、日本画家・石本正氏の出身地であり、同町には石本正美術館が建てられている。
 
石本正美術館
 石見地方の持つ風土が優れた芸術家を生み出すのだろうか。それとも他の要因があるのだろうか。
 彼らの足跡をゆっくりとたどり、旅人自身が何かを発見する旅。石見探訪の魅力はそこにある。

石見神楽  
神職による神事と民衆の新しい感覚を加えながら受け継がれてきた民俗芸能。石見人の気性をあらわすと言われる勇壮で活発な八調子の早いテンポを特徴としている。
石見神楽上演予定
●浜田市
日本石見神楽大会(11月中旬)
しまねお魚センター(第1・3日曜日)
ゆうひパーク浜田(第2・4日曜日)
●江津市
江津市石見神楽大会(11月)
有福温泉「湯の町演芸場」(毎週土曜日)
●金城町
ふる里の秋まつり(10〜11月)
美又温泉会館(9〜12月の毎週土曜日)
さざんか祭り(11月第1土・日曜日)
●旭町
旭温泉湯ったり神楽(9月〜11月第2・4金曜日)
旭ふる里まつり(11月第2日曜日)
●その他
秋まつり(弥栄村)
石見神楽競演大会(美都町・11月2〜3日)
大元神楽(川本町・石見町・桜江町・10〜11月)
陰陽神楽競演大会(瑞穂町・10月)
石見地方の温泉  
石見地方の温泉はいずれも、ひなびた風情と旅情感がたっぷり。
心身ともに安らぐには最適である。
●湯抱温泉 邑智町/人麻呂終焉の地とされる鴨山近くにある
●温泉津温泉 温泉津町/情緒たっぷりの温泉街がある
●三瓶温泉 大田市/三瓶山や石見銀山観光の拠点
●潮温泉大和荘 大和村/江の川を眺めながらの河畔の宿
●風の国温泉 桜江村/体験工房などを隣接する
●いわみ温泉「霧の湯」 石見町/香木の森公園に隣接し、ハーブ湯などが楽しめる
●湯谷温泉弥山荘 川本町/のどかな農村風景を楽しめる
●荒磯温泉 益田市/日本海に面した露天風呂
●美都温泉湯元館 美都町/まろやかなアルカリ性単純温泉
●むいかいち温泉ゆ・ら・ら 六日市町/開放的な露天風呂
●柿木温泉、木部谷温泉 柿木村/赤褐色のラジウム泉
●津和野温泉「なごみの里」 津和野町/山々を借景としたビオトープ温泉
●匹見峡温泉やすらぎの湯 匹見町/原生林など大自然が楽しめる
●多田温泉、大谷温泉 益田市/山あいにある静かな温泉場
●有福温泉 江津市/昔ながらのひなびた情緒を味わえる
●美又温泉 金城町/泉質が良く、美人湯として知られる
●リフレパークきんたの里 金城町/ラドンを豊富に含む湯
●旭温泉 旭町/浜田自動車道旭I.Cから約2分
●伊木温泉 金城町/旧マンガン鉱の洞窟から湧出
●湯屋温泉子安華湯館 金城町/良質のラドン泉


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