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| 知事対談 | 「小説の舞台、島根を語る」 |
| ふるさとから 生まれる作品 知事 夏樹先生には、島根にちなんだ作品をいろいろお書きいただき、島根県にはずいぶんお越しいただいているようですね。 夏樹 はい。10回は伺っていると思います。一番最初は、「遠ざかる影」の取材で出雲大社から頓原町に参りました。その次には個人的な観光も兼ねて、「湖に佇つ人」の取材で宍道湖や中海の辺り。宍道湖の北岸を走る、昔懐かしい何とも言えないムードのある一畑電車にも乗りました。また、伊沢蘭奢の伝記「女優X」を書くために津和野町には何度も伺いましたし、文化講演会のために益田市にも参りました。 知事 島根県は出雲、石見、隠岐の、歴史も文化も違う三国が一緒になってできていますから、隠岐島へもぜひお越しいただきたいと思いますが、これまでに、東部から西部までずいぶんいろいろな所へお出かけいただいていますね。 夏樹 最初に頓原町へ行ったきっかけですが、小説を書くために土葬のことを調べていて、民俗学の柳田国男先生の本の中に土葬を行う地域が何カ所か出てきました。その中で、出雲大社から南下した頓原に何か感ずるところがあって取材に伺ったんです。博物館では、農具とか雪靴のようなものなど非常に興味深いものがいろいろあって、ゆっくり拝見したのを覚えています。ほかには、宍道湖の風景がとても好きで、書かせてもらおうという気持ちになりますね。 知事 宍道湖は夕日が本当にきれいですから誇りに思っています。松江市の湖岸にある県立美術館から眺める夕日は非常にいい景色で、閉館時間を夕日が沈んでから30分後と設定し、大変好評をいただいています。 夏樹 それは素敵ですね。一畑電鉄沿線にある紅葉のきれいなお寺もいいですね。 知事 鰐淵寺ですね。重文の観音がある古いお寺で、昔、武蔵坊弁慶が鳥取県の大山寺から釣鐘をかついで一晩で持ってきたという伝説があります。毎年平田市の若者たちが、弁慶に扮して鐘を運ぶというお祭りをやっております。 夏樹 お寺のたたずまいがとても印象に残っています。そして、津和野町。最初は観光で訪れて、その後、ご縁があって小説に書かせていただきました。
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津和野町出身の女優、 伊沢蘭奢との出会い 知事 そもそも先生が小説家を志された動機をお聞かせいただけますか。 夏樹 私もやはり文学少女の端くれで、中学時代から小説のまねごとを書いておりました。しかし大学生になりますと、世の中も知らず、特別な体験があるわけでもない者が自分のことを書いても人は面白いはずはない、というくらいの分別が出てきます。それで、ミステリーならゲーム性のような独特のものがありますから、ずっと好きで読んでいた古典の知識などを参考にすれば書けるんじゃないかと思い、大学4年になる春休みに、江戸川乱歩賞に応募しました。最後の一作に残りましたが、水準に至らずということでその年は受賞作なしという結果。でもそれがきっかけで、NHKの当時の人気推理番組「私だけが知っている」のシナリオを書く機会を頂きました。探偵局長が徳川夢声さんで、岡本太郎さん、池田弥三郎さん、戸板康二さん、有吉佐和子さんなどすごいメンバーが真剣に討論して犯人を当てる番組です。それらがミステリー筆に手を染めるきっかけです。 知事 ミステリーではない作品に取り組まれた経緯はどんなところにあるんですか。 夏樹 私は、テーマのあるミステリーを書きたいとずっと思っていました。でも、テーマをリアルに追求することとミステリーの面白さはなかなか両立しないんです。ですから、ミステリーの面白さにとことん徹する一方、テーマを追求するときには徹底してテーマを書くという姿勢の方がいいと思い始め、10年ほど前から100パーセントミステリーでないものを書き始めました。最初はアルツハイマーを題材にした「白愁のとき」。次が津和野町出身の伊沢蘭奢の伝記「女優X」です。これからも機会があれば評伝も書きたいと思っています。評伝、伝記は対象になる人物との出会いです。出会って共感したり、この人を現代に甦らせたいという思いがあって初めて書くことができます。そういう意味で、蘭奢さんとは本当に出会いだったと思います。私が親しくしている文藝春秋社の高橋一清さんが益田市のご出身で、蘭奢さんに非常に強い思い入れがあり、その伝記を私に書かないかと話して下さったことが始まりでした。 知事 それで伊沢蘭奢を取り上げられたんですね。 夏樹 新劇への夢を絶ち切れなかった蘭奢は、6歳になった子どもと安定した妻の座を捨てて上京しトップスターになり、大正時代末から昭和の初めに活躍しました。結局、子どもを置いて出るしか自分の夢は遂げられなかった時代です。私自身、育児をしながらの仕事は大変でしたけれど、蘭奢のようにつらい犠牲を払わなくてもよかった。また、死の直前に我が子に会いたいと思う気持ちが募るという、そんな思いもよく分かりましたから、私の手でもう1回今の世の中に生き返らせてみたいと思いました。 |
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